「あ、それポン」
いつもと同じ友人の部屋、いつもと同じメンバー、夜になって自然に集まって朝方まで麻雀をやるだけ。
その日が楽しければいい、嫌なことは後回しで今やりたいことだけをやる。
「今日は全然ダメだったわー」
なんて、カラ笑いでただ何となく。
夢……みたいなものはあるけれど、特に何をしているわけでもない。思っているだけで叶うならそんな楽なことはないと分かっていても、変わりなく過ぎていく貴重な時間。
麻雀が上手になっていけばいくほど、その分たくさんの時間を失っていく。
ときどき無性に漠然と不安になる。
もっと出来ることがあるんじゃないだろうか、今しかできないことがあるんじゃないかな。
そう心の中で思っては、明日は〜があるしと自分に言い訳を付けて、しまいには俺は俺なりに頑張っているなんて、自分でも分かってる嘘を並べる。
麻雀をやっているメンバーで将来の夢を話すと
「経営者になるのが夢、絶対に叶えてやる」
どうすれば経営者になれるかなんて具体的にも考えてないくせに。口に出せば叶う気がして、それだけをずっと口に出してきた。
いつからだったかな、小さかった頃の自分はもっと新しいことを受け入れて、前に進むのが上手だった気がするのに。
ワンピースの連載みたいに、死ぬまでこんな日々がずっと続くと思っていた。
そんなある時に言われた一言。
「そんなに頭が回るのに、なんで単純なことが分からないの?」
よく、頭に稲妻が走ったなんて表現をすることがあるけど、まさにそれ。
色々と分かってるフリして、凡人のくせに天才のつもりで、過ごしてた。
なんてことない言葉、僕のことを気遣いながら紡いでくれた言葉。
そこからは、死ぬ気で努力を……なんて出来るならもっと前から頑張ってるわけ。
ドラマチックなカッコいい展開ではないけれど、少しずつ意識が変わっていくのが分かる。
どうしようかな、どっちにしようかな。
どんな時にも人は2択を選択していくことになっている。やってみるか、諦めるか。
もちろん全部なんて、堕落してた僕にはできない。
でも少しずつ、経営者になるなら……と勝手にそう思ったことは、今やりたいことじゃなくてもやってみる選択肢を選ぶようにしてみた。
今でも、あの頃に夢見たようなカッコよくて、お金もたくさん持っている経営者になんてなれてない。
けれど、なんとか生活できている程度の経営者にはなることができたみたい。
これから先、自分がどこまで夢に近づいていけるのか不安しかない。
だって、中身が変わったわけじゃないから。
だからこそ麻雀ばっかやってた凡人がどこまでやれるのか少し楽しみではあるかも。