
今回は独断と偏見でクリボッチに捧げる映画として「トニー滝谷」を紹介していきます。
これを見ればより虚しくなること間違いありません。ホッと心温まるお話でも涙で溢れるお話でもありません。とにかく虚しい。
一人の寂しいクリスマスをソリに乗せて、虚しさのその先へと一緒に向かいましょう。
※大きなネタバレはありませんが若干のネタバレを含みます。
目次
「トニー滝谷」という作品について
2005年公開。村上春樹さんの短編小説が原作となっており、市川準監督により、イッセー尾形さんが主演で映画化されました。主人公トニー滝谷の“孤独な人生”を描いた作品となっております。
この作品、少し変わっているところがあります。それはキャストのイッセー尾形さんと宮沢りえさんが一人二役やっているというところです。
主人公の“トニー滝谷”とその父“滝谷省三郎”をイッセー尾形さんが、トニーの妻“小沼英子”とアシスタントの“斉藤久子”を宮沢りえさんが演じています。
宮沢りえさんに関して二役演じているのがわかりましたが、イッセー尾形さんに関してはわかりませんでした。ちょっと似てるなあとは思ったものの、人物の雰囲気がまるで違うので驚きでした。
ちなみに宮沢りえさんについては、これは演技が下手だという意味ではありません。演じる二人が全く違ってはダメなんです。同じくらい似ているということがトニー滝谷という人物を描くのに重要なのです。しっかりと二役を演じることに意味があります。
それにしてもなかなか無い配役ですよね。少し気になってきませんか。
この映画のあらすじ
戦後直後という時代背景の中、父にとある理由から付けられた“トニー滝谷”という名前が原因で孤独な少年期を過ごします。彼の本名です。そんなトニー少年が孤独の中で没頭したことが絵を描くこと。
少年期に孤独の中で培った絵を描く才能が花開き、大人になった彼にイラストレーターとしての明るい道が開き始めます。そんな中、仕事先で出会った最愛の人。その人との結婚。そして幸せの真っ只中にいる彼を再び襲う逃れられない孤独。
トニー滝谷という男は本当に独りぼっちだった
ストーリーの箇所箇所で大きな変化はいくつかあるものの、目まぐるしい展開があるわけではありません。徐々に静かにストーリーが流れていきます。
常に地上ギリギリを飛んでいて少し上昇するかと思えばそこまで上昇していくこともなく、落ちそうになるかと思えば一定以上は下がることがない。それは彼がどんな時にでも孤独を常に受け入れていて、拒んだり恐れたりはしないし、それが仕方のない常であることを知っているからなのかもしれません。
それは観ていて一種の諦めのようで悲しくも感じ、しかし合理的にも感じます。彼の孤独との付き合い方に段々共感を覚える、というよりも染められていきます。そういう風に付き合っていくしか無いんだと。
また劇中歌には坂本龍一さんの音楽が使われています。そのもの寂しげなピアノの音色が静かな物語の運びをより繊細なものへと昇華させていきます。
冬の張り詰めた空気を感じさせ、しんしんと降り積もる雪のようです。まさに冬にぴったりな映画なのです。
誰かと融合していない限り、人は常に孤独な存在です。少し自分と重ねて見てみてください、きっと心が重くなって、ああ恋人の一人でも作っときゃよかったとなるはずです。
今からでは遅いので諦めましょう。