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コンビニ帰りにパラレルワールドに迷い込んだ男。-DAY6-

コンビニ帰りにパラレルワールドに迷い込んだ男。-DAY6-

日が落ちたとはいえ、外はまだ酷く蒸し暑い。

日本の夏とはなぜこんなにも過ごしにくいのだろう。

どの部屋に住んでいるのか分からない女性を探すために、こうして平井さんと自室で耳を済ませている。

1時間ほど待っても、聞こえてくるのは虫の声ばかりで一向に姿を表す気配はない。

待っていれば外出すると言う保証もないからなのか、時間の経過が長く感じる。

「大丈夫?疲れていない?」

僕の身勝手で付き合わせている上に、会話も弾むこともないので心配になり訪ねる。

「いいえ、大丈夫です」

そう言われてしまうと逆に困ってしまった。

どうしようか、このままずっと待っているだけと言うのも悪い気がする。

「あのさ、質問してもいい?」

質問ばかりになってしまうが、何も話さずに黙っているよりは良いか。

返事は帰ってこないが、視線をこちらに向けているので続けてもOKと言うことだろう。

「この世界は言葉が違うみたいだけれど、平井さんはどうしているの?」

行ったり来たりを繰り返しているのだから、全く話さずに過ごすのは難しいように思える。

例えば、元の世界の言葉とこの世界の言葉に法則性があって、多少でも理解できるのだとすればこれから先に役立つはずだ。

「ごめんなさい、私もわかりません……」

ああ、そうか。

僕が元の世界で誰と話すこともなく生活できていたように、何か自らアクションを起こさない限りは喋れなくても過ごすことができる。

彼女も交友関係が特にないと言っていたわけだし、こちらにいる間も誰かと話さなければいけないシーンがないのだろう。

絞り出して投げた会話のキャッチボールが脆くも崩れて去ってしまった。

また夏の声が空白を埋める。

どれくらい前になるだろうか、まだ僕が大人を見上げていたくらいの時に同じような夏の声を聞いたことがあった。

母の実家がある何もない田舎で、近所を1人で探検していたときのこと。

目的もない、探検の末に見つけたのは木々に囲まれた急な石階段。

今では好奇心をそそることもない、ただの階段をてっぺんに何があるのかワクワクしながら登っていく。

子供の僕には、永遠のように長い階段を進んだ先にあったのは、少し朽ちた赤い鳥居だった。

誰もいない静かな神社の本殿に腰をかけて、肩から下げていた水筒の冷たい麦茶を口にする。

汗でびしょ濡れの背中を撫でる涼しい風を感じて振り返ると、閉まっている姿しか見たことのない本殿の扉に隙間があることに気がついた。

中には何があるのだろう。

好奇心で隙間から片目で中を覗いてみると、見えたのは棚に飾られた小さな鏡のようなものだけ。

「何してるのー?」

「ワッ!!」

誰もいないはずの境内で、後ろから声をかけられたから思わず叫びながら尻餅をつく。

声のする方向にいたのは、自分と同い年くらいの少女。

元気すぎるくらいの笑顔でこちらを見ながら、手を降って近づいてきた。

「何してたのー?」

「え、なんにもしてないけど」

なんとなく、中を覗いていたと言うのは嫌だったので、適当な嘘をつく。

「えー、だって神社の中覗いてたじゃん」

完全に見られていたようだ。

こうなってしまったら、嘘を突き通すのは難しい。

仕方なく、扉が少し開いていたから気になって覗いていたことを話すと。

「私も見てみたい!」

キラキラした声でそう言うものだから、仕方なく一緒に覗いてみることにした。

「何にもないね」

僕も同じ気持ちだった。

隠された扉の中にはみたこともないような物があるんじゃないかとの期待を超えるような光景ではない。

「ねぇ、中に入ってみようよ!」

女の子に半ば強引に手を引かれながら、中へと入っていく。

外の蒸し暑さが嘘のように涼しい。

勝手に入ってはいけないところと、子供ながらに感じていたのだろう。

2人とも入ってからは会話もなく、ただ辺りをキョロキョロと見渡していた。

黙ってそうしていると、先ほどまでは気にならなかった虫の声と葉が動く音が周りを包み込む。

そのあと、少女とどうやって別れたのかも、どんな会話をしたのかも覚えていない。

「あの……」

過去の記憶から引き戻される声に我に返る。

「扉が開くような音が聞こえた気がするんです」

「え、本当?」

回想に気が取られていたせいで、全く聞こえなかった。

「ちょっと覗いてみるから、平井さんはここで待ってて!」

急いで扉を開いて周りを探してみる。

下を覗き込むと、アパートから男性が外に出てくるところが見えた。

部屋に戻り、別人だったことを告げる。

それからしばらく待っていたが、人が出かけるような様子はなく、完全に日も暮れた。

「今日は、このくらいにしておこうか?」

夜もずっと一緒にと言う訳にはいかないので、平井さんに提案をしてみる。

すると、なぜか少し困ったような表情になる彼女。

「どこかで家の鍵を落としてしまったみたいで……」

「え、本当に!?」

日も暮れてしまったから、これから探しに言っても見つかる可能性は低いかもしれない。

どうしたものか……

「どこに落としたのか分かる?」

「ここまでの道で落としたかもしれません、ごめんなさい」

困ったことになった、探しに行くなら朝になってからの方が良いが、平井さんを外で野宿させる訳にもいかない。

とはいえ、男の一人暮らしに泊めると言うのもどうだろう。

困惑していると、彼女の方から

「ごめんなさい、困ること言ってしまって、私探しに行ってきます」

「あ、あ、ちょっと待って!」

「夜だと見つかるか分からないから、明日探したら?」

「平井さんが大丈夫なら泊まっても大丈夫だから」

「え、そんな、悪くないですか?」

「俺は全然大丈夫だけど……平井さんが大丈夫?」

「とってもありがたいです」

彼女には警戒心と言うものがないのだろうか、それとも僕が男として見られてないのかもしれない。

どちらにせよ、世話になっている平井さんに何かする気なんて毛頭ない訳で、信用してくれているのは単純に嬉しい。

まさかの展開にはなったが、あまりにも挙動不審だと彼女を警戒させてしまうかもしれない。

「こちらこそ、付き合わせてしまって申し訳ないです」

なるべく平常心を装って、会話を進める。

あ、そういえば。

夕飯どうしよう……

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