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ペットの世話ができなかった僕とたれ耳の彼女

ペットの世話ができなかった僕とたれ耳の彼女

幼いころ、僕はペットの世話が出来なかった。

出来なかったというよりは、しなかったのが本当のところ。

ハムスターが飼いたい、犬が飼いたいと言うたびに、母から「ちゃんと世話ができるの?」、「ずっとやらなくちゃいけないんだよ?」と問いかけられる。

僕がそんなときに決まって言うセリフはこうだ。

「わかってるよ、ちゃんとやるから」

結局のところ、1週間も経てば後でやるからと言いつつ、母が世話をするようになる。

そんなことを繰り返すうちに、自分にはペットの世話が出来ないと言うことに気づくようになった。

大人になって、仕事をするようになって、自分のことでいっぱいになる頃にはペットを飼いたいと思わなくなっている自分がいた。



出会い

ある日のこと、ペットショップのたくさんケージが並んだ一角で、灰色の綺麗なグラデーションがかかった毛並みをしている“うさぎ”を見つけた。

彼女は耳が垂れるはずの片方が立ったまま、あたりをキョロキョロと眺めている。

指をそっとケージに近づけると、興味を持ったのか僕の方へと寄ってきた。

金属の柵ごしに頭を下げてきた彼女を人差し指でなぜると、柵の間に挟まるようにして顔を預けながら嬉しそうにその場から離れなくなった。

しばらくそのままの時間が過ぎた後、夫婦らしい2人が同じコーナーに近づいてきたので、その場所を離れることにした。

さっきまで、ケージの前にいた彼女は僕が去るのと同時に奥へと引っ込んで行くのが見えた。

その様子が気になったので、少し遠くから様子を眺めていると、先ほどまで指を近づければ寄ってきていた彼女なのに夫婦が近づいても奥から出てくる気配がない。

夫婦が去った後、もう一度僕は彼女に近づいてみる。

すると先ほどと同じように僕の元へと寄ってきた、彼女のそんな仕草にやられてしまった僕は2時間も店内で悩んだ挙句、彼女を家に連れて帰ることにした。

ペットの世話が出来ない僕と彼女の日常が始まった。

新しい家

彼女を家に連れてきたばかりのその日。

店内で悩んでいた時間にスマホで、うさぎの飼育について情報収集していた僕は、当日は怖がっているのでそっとしておくようにと言うアドバイスを元に、新しいケージに入れたあとはあまり構わずにそっとしておこうと考えていた。

だけど彼女にそんな常識は通用しない。ケージの中から顔を覗かせて、僕に構って欲しいと訴えてきているような仕草を見せる。

新しい家にも戸惑う様子を見せない彼女は、翌日には膝の上に乗ってくるほど新しい場所に慣れていた。

毎日の中に家族が増えて、1週間が経つ頃になっても幼い時のような、言い訳は僕の中で生まれてこない。

あの時僕が思った自分の出来ないことは、なんだったんだろう。

彼女だからそうなのか、それとも自分が変化しているのか。

大変だと思うことがない訳ではない。仕事から疲れて帰ってきた日も彼女にはいつもと同じように、部屋を掃除して、ご飯をあげる。

僕が疲れているからと、何もしなければ、ただ家で僕の帰りを待ってくれる彼女が辛い思いをする。

そう考えると、自然と身体が動くようになっていた。

体調を崩した日

彼女との生活が始まって、1年半が経つ頃。毎日と同じようにゴハンをあげようとすると、いつもなら部屋から嬉しそうに出てくる彼女がジッとして外に出てこない。

しばらく待ってみても、出てこない彼女をみて、体調が悪いのではないかと気づいた。

病院に連れて行くと、鬱滞(うったい)と呼ばれる症状だと説明される。

綺麗好きの彼女は毛づくろいをしても猫のように毛玉を吐き出すことが出来ない。季節の変わり目とか、ストレスで消化器官の動きが弱まるとお腹の中に異物が溜まってしまうのだ。

最悪の場合には水も飲まなくなってしまうので、死ぬこともあると言う。

何が原因だったのか、夏の暑さのせいなのか、昨日遊んであげる時間が少なかったからなのか。

彼女は僕と同じ言葉を喋ることが出来ない。だから本当のところは結局わからない。

手術が必要かもと獣医から説明されていても、なんだか頭の中は整理出来ていなかった。

切って取り出すという行為は人間のそれよりも大きなリスクを伴う、だから彼女の場合は症状ではなく手術が原因で死んでしまうこともある。

悩んでいると、獣医からひとまずの薬での治療を伝えられて、注射をうってもらい、家での薬を処方されて、その日はいつもの家へと帰った。

幸いなことに、彼女の体調はその日のうちに戻ってくれた。

翌日からはいつも通りの彼女に戻り、嬉しそうに僕の足元をくるくると駆けまわる。

元気になってくれてよかったけれど、何も選べない彼女には、命がかかっている場面でも僕がそれを選択するしかないことに気づかされる。

これから

ペットの世話が出来なかった僕は彼女と出会って、自分以外の何かを気遣うことはできるようになれた。

自分の世界に誰かが加わることで、それまでにはなかった新しい何かを見つけることができるようになる。

今まで出来ないと思っていたことも、案外難しいことではないのかもしれない。

ライター情報

むーさん
また真面目って言われる。

真面目って言うな。ばかやろー。

チップスターうまし。
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